オンプレミスERPとは?
オンプレミスERPとは、企業が自社内のサーバーやデータセンターにERP(Enterprise Resource Planning)システムを構築・運用する形態です。自社で全てのハードウェアとソフトウェアを管理し、データも社内で保管するため、高いセキュリティとカスタマイズ性を実現できます。
製造業A社の情報システム部長は「10年前にオンプレミスERPを導入しました。当初は投資額の大きさに躊躇しましたが、機密性の高い生産データを自社で完全管理できる点が決め手となりました」と振り返ります。
オンプレミスERP運用コストの全体像
オンプレミスERP運用コストは主に4つの要素で構成されます。実際のコスト構造を理解することで、適切な予算計画が可能になります。
初期導入コスト
ライセンス費用、システム構築費、カスタマイズ費用が含まれます。従業員300名の建設会社では、初期導入に約2,500万円を投資しました。「想定以上の費用でしたが、既存の販売管理システムとの連携が必要だったため、カスタマイズ費用が全体の40%を占めました」と同社の経理部長は説明します。
ハードウェア・インフラコスト
サーバー、ストレージ、ネットワーク機器の購入費用です。システムの拡張に伴い追加投資が必要となる場合があります。「3年目に事業拡大でユーザー数が倍増し、サーバーの増設で追加800万円の投資が必要になりました」という事例も珍しくありません。
保守・メンテナンスコスト
年間ライセンス費用の15-20%程度が一般的です。システムアップデート、セキュリティパッチ適用、障害対応などが含まれます。食品卸売業B社では「年間保守費用だけで600万円。しかし、24時間365日のサポート体制があるため、業務停止のリスクを大幅に軽減できています」と評価しています。
人件費・運用コスト
システム管理者の人件費、電気代、データセンター費用などの継続的な運用コストです。専任のシステム管理者1名の年収を800万円として計算すると、10年間で8,000万円の人件費が発生します。
実際の運用コスト事例
従業員500名の商社C社の実例では、10年間の総運用コストは以下の通りです:
- 初期導入コスト:4,200万円
- ハードウェア・インフラ:1,800万円(更新込み)
- 保守・メンテナンス:3,600万円
- 人件費・運用コスト:9,200万円
- 総額:1億8,800万円
クラウドERPとの運用コスト比較
初期費用の違い
クラウドERPは初期費用を大幅に抑制できる一方、オンプレミスERPは高額な初期投資が必要です。「クラウドERPなら初期費用200万円程度で導入できましたが、カスタマイズ制限があったためオンプレミスを選択しました」と語るのは、物流会社D社の社長です。
ランニングコストの違い
クラウドERPは月額料金制で予測しやすく、オンプレミスERPは保守費用や人件費が継続的に発生します。前述のC社では「クラウドERPの場合、10年間で約1億2,000万円。オンプレミスより6,800万円のコスト差が生まれましたが、セキュリティ要件を満たすためには必要な投資でした」と判断しています。
オンプレミスERP運用コストを削減する実践的方法
- 仮想化技術の活用:サーバー統合により物理サーバー台数を50%削減し、年間200万円の電気代を節約した事例があります
- 保守契約の見直し:複数ベンダーとの契約を統合し、年間保守費用を20%削減
- 段階的クラウド移行の検討:非基幹業務から順次クラウド化し、5年間で総運用コストを30%削減
成功事例から学ぶポイント
製造業E社では、オンプレミスERP導入から7年が経過しています。「初期投資は大きかったものの、生産計画と在庫管理の精度が向上し、年間3,000万円のコスト削減を実現できました。ROI(投資収益率)の観点では十分に成果が出ています」と同社の取締役は満足しています。
オンプレミスERPの主なメリット・デメリット
メリット:高いセキュリティレベル、柔軟なカスタマイズ対応、既存システムとの密接な連携性、データの完全な自社管理
デメリット:高額な初期投資、継続的な運用負荷、専門技術者確保の困難さ、災害時のリスク
まとめ
オンプレミスERP運用コストは初期導入から継続的な保守まで多岐にわたり、10年間で数億円規模の投資となることも珍しくありません。しかし、適切な計画と運用により、業務効率化や競争力強化という形でROIを実現している企業も多数存在します。
自社の事業規模、セキュリティ要件、既存システムとの連携性を十分に検討し、クラウドERPとの比較も含めて最適な選択を行うことが重要です。導入前には必ず複数のベンダーから提案を受け、総所有コスト(TCO)を正確に把握することをお勧めします。